IG Photo Gallery |タカザワケンジ展「二つの町の対話:花蓮・前橋」  


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2025/1/14~2/1
IG Photo Gallery企画展

タカザワケンジ展「二つの町の対話:花蓮・前橋」

 IG Photo Galleryでは2025年1月14日(火)より、タカザワケンジ展「二つの町の対話:花蓮・前橋」を開催いたします。好地下藝術空間(台湾花蓮市)の招きにより約1カ月間の滞在で制作した作品をもとに、新たな写真を加えた東京バージョンとなります。

 以下、作家ステートメントです。

 2024年5月に好地下藝術空間(台湾花蓮市)で展示した「非寫真家的私寫真與路上的臉」のうち「二つの町の対話」をもとにした作品を展示します。
 私は2024年4月から約1カ月間、台湾東部の花蓮市に滞在しました。作家として招聘され、作品をつくり展示をするという、いわゆるアーティスト・イン・レジデンスです。私にとって初めての経験でした。
 「二つの町」とは花蓮と、私の出身地であり、18歳まですごした群馬県前橋市です。
 花蓮で久しぶりに独り暮らしをした私は、人生を振り返り、これまで旅したさまざまな場所、暮らした街を思い返す機会を得ました。
 これまでも台湾には数回短い旅行をしたことがありましたが、今回、私の記憶を刺激したのは意外なことに風景でした。それまで台湾の文化、習俗などに関心を持っていましたが、一つの町に滞在することで町の基礎となっている地形に対する関心が生まれたのかもしれません。とくに私にとって印象深かったのは、滞在先のベランダから見える山々でした。
 日本の地方都市で生まれ育った多くの人がそうであるように、私は山を見て育ちました。しかし上京すると山はビルの後方へと退き、いつしかその存在を意識することはなくなりました。
 花蓮で私が思い出したのは、かつて山を見ながら歩いた学校の行き帰りであり、両親の実家のある秩父の山々でした。
 花蓮と前橋。
 遠く離れた二つの町を写真で対話させてみようと考えたのは、台湾と日本の藝術家、写真家の作品がきっかけでした。
 台湾の藝術家は田名璋。好地下藝術空間のディレクターでもある彼はhomesicknes(郷愁)をテーマにコンセプチュアルな作品を写真、映像、インスタレーション作品を制作しています。彼のアプローチを知り、私自身の故郷をふりかえってみようと思いました。
 日本の写真家は柳沢信。「二つの町の対話」というタイトルは、ふと浮かんだものですが、それには出典がありました。私の中でずっと気になっていた日本写真の名作、柳沢信の『二つの町の対話』(1966)です。私はこの作品のタイトルが想起するものが実に写真的だと思い、忘れられずにいたのです。
 柳沢信の『二つの町の対話』は「カメラ毎日」1966年12月号に発表した12カットの作品です。副題に「川崎=萩・津和野」とあり、二つの町で撮影した写真が対比的に並べられています。
 川崎は高度経済成長を支える工業都市。萩・津和野は伝統的な都市です。対照的な二つの町を「対話」させることに徹した写真は、言葉に寄らず、目に見えるものだけで異なる町に流れる時間を表現していました。それはアメリカにならった急激な経済的発展へと舵を切り始めたこの国の、もう一つの路を探る試みと解釈することも可能でしょう。
 私は柳沢信の作品タイトルを借りて、言葉に寄らず、目に見えるものだけで花蓮と前橋という二つの町に近づこうと思いました。
 私の企みは、日本と台湾という異なる国の地方都市を、「私」という存在をジョイントに使い、対話させようというものです。私という個人を媒介として、花蓮と前橋という遠く離れた街をつなぐ。それも写真という非人称的な機械を使って。
 私は日本から持参したハードディスクの中から前橋の写真を探し出し、花蓮で撮影した写真とつきあわせてみました。
 すると、1人の人間が発表するあてもなく、何かを表現するという目的なしに撮影した写真であるにも関わらず、そこには花蓮の町で私が撮った写真と奇妙に重なり合うものが写っていました。
 そこで、地形、気候、植生、建築、歴史、文化といった、目に見えるものと目には見えないが想像できるものとを、時には対比させ、時には共通点を見出して構成するよう心がけました。私にとって写真は「撮る」ものではなく「見る」ものであり「発見する」ものなのです。
 「二つの町の対話:花蓮・前橋」はそのようなスタンスでつくった「非写真家」の展覧会です。そこに何が写っているかをぜひご覧ください。

タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)

** 安心してご覧いただくため、空気清浄機、手指の消毒薬の設置などの感染対策を行います。

■作家プロフィール
タカザワケンジ Takazawa Kenji
1968年前橋市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。写真評論、インタビューを雑誌に寄稿。写真集の編集、写真についての展示など、写真のアウトプットに対する実践も行っている。解説を寄稿した写真集に渡辺兼人『既視の街』(AG+ Gallery、東京綜合写真専門学校出版局)、石田省三郎『Radiation Buscape』(IG Photo Gallery)、内倉真一郎『忘却の海』(赤々舎)、Hiroshi Watanabe(渡邉博史)『AS THE SUN SETS ON ME, IT RISES ON YOU』(DARK SPRING PRESS、2024)、藤原敦『櫻川』(Zen Foto Gallery、2024)、Toshiya Watanabe(渡部敏哉)『Beyond what you see』( IBASHO & the(M) ?ditions、2024)ほか。著書に『挑発する写真史』(金村修との共著、平凡社)。ヴァル・ウィリアムズ著『Study of PHOTO 名作が生まれるとき』(ビー・エヌ・エヌ新社)日本版監修。京都芸術大学、東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツ・アカデミーで非常勤講師を務める。IG Photo Galleryディレクター。

個展
「非寫真家的私寫真與路上的臉」(好地下藝術空間、花蓮、2024)
「私写真」(IG Photo Gallery、東京、2023)
「SWM2.0 パレイドリアの罠」(IG Photo Gallery、東京、2023)
「昨日のウクライナ」(こどじ、東京、2022)
「someone's watching me」(IG Photo Gallery、東京、2022)
「someone's watching me」(Photo Gallery Flow Nagoya、名古屋、2021)
「郷愁を逃れて」(IG Photo Gallery、東京、2020)
「バブルのあとで」(こどじ、東京、2020)
「非写真家3.0 こぼれた水をコップにもどす」(IG Photo Gallery、東京、2019)
「非写真家2.0 入れ子の部屋 Nested room: non-photographer part2」(MUNO、RAINROOTS、paperback、名古屋、2018)
「非写真家 non-photographer」(IG Photo Gallery、東京、2018)
「非写真家 non-photographer」(MUNO、RAINROOTS、paperback、名古屋、2018)
「Osamu Kanemura's New Work? 」(The White、東京 2016)
「CARDBOARD CITY」(The White、東京 2015) 「Road and River」(アガジベベー、東京 2007)
グループ展
「寫真作家主義──Takazawa Kenji 寫真表現工作坊聯展」(田園城市生活風格書店、台北、2023)
「写真史(仮)」(金村修との二人展、176ギャラリー、大阪、2017)
「写真史(仮)」(金村修との二人展、The White、東京、2017)
「写真の地層」展 Vol. 8(VIII)(世田谷美術館区民ギャラリーB、東京、2007)
「写真の地層」展VI(世田谷美術館区民ギャラリーB、東京、2005)

著書
『写真 新編 写真の歴史と展開、変容と拡張』(共著、勝又公仁彦編、京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎、2023)
『昨日のウクライナ』(Triplet、2022)
『someone's watching me』(Triplet、2021) 『写真1 写真概論』(共著、勝又公仁彦編、京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎、2021)
『ESCAPE』(Triplet、2020)
『偶然の写真史II』(Triplet、2019)
『偶然の写真史I』(Triplet、2017)
『挑発する写真史』(金村修との共著、平凡社、2017)
『Kanemura's people』(Triplet、2016)
『窓とパンプス』(Triplet、2015)

■会期
2025年1月14日(火)~2月1日(土)
時間:11:00~18:30
休廊:日曜日・月曜日・祝日

■レクチャー
タカザワケンジ「好地下藝術空間(台湾花蓮市)レジデンスと、柳沢信の『二つの町の対話』のこと」
1月18日(土)18:00~
You Tubeにて、配信します。
チャンネル名:IG Photo Gallery
*これまでのトークセッションの録画もございます。チャンネル登録をお願いします。

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