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2023/5/9~5/27
IG Photo Gallery企画展

タカザワケンジ展「SWM2.0 パレイドリアの罠」

 IG Photo Galleryでは5月9日(火)よりタカザワケンジ展「SWM2.0 パレイドリアの罠」を開催いたします。
 「SWM」とはシリーズ作品「someone's watching me」の頭文字をとった略称です。今回の展示は、同シリーズの第2弾となります。今回の展示に先立ち、2023年4月に台北でのグループ展「寫真作家主義──Takazawa Kenji 寫真表現工作坊聯展」(田園城市生活風格書店、台北)で発表する予定の作品を含む新作です。
 「someone's watching me」は路上で他人を無断で撮影する、いわゆる「ストリートスナップ」が社会から受けている批判から着想したシリーズです。
 写真史にはストリートスナップの名作が数多くあり、それらがある時代と場所を記録する貴重な記録であり、写真家独自の表現であることは周知の事実ですが、現代では一方的に写す(見る)ことが写される(見られる)側を傷つける、不快にさせることが指摘されています。また、インターネットが発達したSNS社会において自分の顔が写った写真が無断で拡散される可能性があり、路上で撮影された他者の顔(肖像)は誰のものか? という問題も生じています。個人の顔はその人自身のアイデンティティと関わる「情報」でもあるからです。
 そこで立てた問いが、写真に写る「顔」はどうすれば個人から離すことができるのか、ということでした。
 「SWM」の制作手順は以下の通りです。都市風景を1秒以下のスローシャッターで撮影します。写真をパソコンに取り込み、画面上で拡大し、写り込んだ人々の顔をスマートフォンで撮影。インスタグラムにアップします。スマートフォンに保存された正方形の写真をプリントしたものが展示作品です。
 スローシャッターで撮影した写真では道行く人の顔はブレ、個人を識別することはできません。前回までの展示では、路上で撮影された「顔」を個人から引き離すことができるのか? 引き離すことができたとして、その「顔」はどのようなものなのか? を実践し、制作プロセスを示すために都市風景の写真を分割して展示しました。
 その後、シリーズを続けていくにつれ、私の中で別の問いが浮かび上がってきました。撮影状況や歩く人のスピードによってブレの度合いはまちまちで、ほとんど顔の形跡を残していない場合もあります。しかし、それでも私たちはその写真が「顔」だとわかります。それはなぜか? と不思議に感じたのです。
 私たちは人間の「顔」に敏感です。写真における顔の存在感は大きく、それが風景写真であっても、多くの人は写真に写り込んだ顔に目が吸い寄せられます。
 反対側から考えてみましょう。私たちは人の顔以外のものを顔だと認識することがあります。岩や雲、木の茂りやコンセント、クルマのフロント部分に顔を見いだします。この現象は認知心理学で「パレイドリア現象」と名付けられています。
 なぜ、私たちの認知に「パレイドリア現象」が起こるのか。
 仮に、人間が生きるために人の顔を認識する能力を発達させているとしましょう。だとすれば、その表情を「読む」ことが生きるために必要だということになります。たしかに、顔から感情の変化を読み取ることは、人間関係を円滑に進めることに役立ちます。
 しかし、私たちの顔への関心は「見る」ことと「見られる」ことの間で分断されます。私たちは他者の顔に強い関心を持ち「見たい」という欲望を持ちますが、同時に一方的に見られることに不快感を感じます。「ストリートスナップ」は、人の顔を見たいという欲望と、他人に見られたくないという忌避感とのせめぎ合う写真でもあるのです。
 「someone's watching me」の続編に「 パレイドリアの罠」というタイトルをつけたのは、人間が「顔」に無意識のうちに向けていることへの興味からです。ブレた顔であっても、私たちはそれを顔だと認識できます。しかし、ブレの度合いが高くなればなるほど、それは人間から離れ「パレイドリア現象」に近づきます。私たちにとって、「顔」と「顔以外」の境界はどこにあるのでしょうか。
 本展示は約380枚の作品を展示します。そのうち1点だけ人の顔以外のブレ写真を混ぜています。その写真をあなたは選ぶことができるでしょうか。
 私たちが顔によせる特別な関心について、撮る・撮られる両方から考えるきっかけにしていただければ幸いです。
 なお、展覧会開催にあたりレクチャーを行います。本作品について、4月に行なう台湾での展示についてのレポートを予定しています。そちらもぜひご視聴ください。

タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)

■作家プロフィール
タカザワケンジ Takazawa Kenji
 1968年前橋市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。写真評論、インタビューを雑誌に寄稿。写真集の編集、写真についての展示など、写真のアウトプットに対する実践も行っている。解説を寄稿した写真集に渡辺兼人『既視の街』(AG+ Gallery、東京綜合写真専門学校出版局)、石田省三郎『Radiation Buscape』(IG Photo Gallery)、井上雄輔『Containers in Tokyo』(Case Publishing)、福島あつし『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』ほか。著書に『挑発する写真史』(金村修との共著、平凡社)。ヴァル・ウィリアムズ著『Study of PHOTO 名作が生まれるとき』(ビー・エヌ・エヌ新社)日本版監修。京都芸術大学、東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツで非常勤講師を務める。IG Photo Galleryディレクター。
個展
「昨日のウクライナ」(こどじ、東京、2022)
「someone's watching me」(IG Photo Gallery、東京、2022)
「someone's watching me」(Photo Gallery Flow Nagoya、名古屋、2021)
「郷愁を逃れて」(IG Photo Gallery、東京、2020)
「バブルのあとで」(こどじ、東京、2020)
「非写真家3.0 こぼれた水をコップにもどす」(IG Photo Gallery、東京、2019)
「非写真家2.0 入れ子の部屋 Nested room: non-photographer part2」(MUNO、RAINROOTS、paperback、名古屋、2018)
「非写真家 non-photographer」(IG Photo Gallery、東京、2018)
「非写真家 non-photographer」(MUNO、RAINROOTS、paperback、名古屋、2018)
「Osamu Kanemura's New Work? 」(The White、東京 2016)
「CARDBOARD CITY」(The White、東京 2015)
「Road and River」(アガジベベー、東京 2007)
グループ展
「寫真作家主義──Takazawa Kenji 寫真表現工作坊聯展」(田園城市生活風格書店、台北、2023)(予定)
「写真史(仮)」(金村修との二人展、176ギャラリー、大阪、2017
「写真史(仮)」(金村修との二人展、The White、東京、2017)
「写真の地層」展 Vol. 8(VIII)(世田谷美術館区民ギャラリーB、東京、2007)
「写真の地層」展VI(世田谷美術館区民ギャラリーB、東京、2005)
著書
『昨日のウクライナ』(Triplet、2022)
『someone's watching me』(Triplet、2021)
『ESCAPE』(Triplet、2020)
『偶然の写真史II』(Triplet、2019)
『偶然の写真史I』(Triplet、2017)
『挑発する写真史』(金村修との共著、平凡社、2017)
『Kanemura's people』(Triplet、2016)
『窓とパンプス』(Triplet、2015)

■会期
2023年5月9日(火)-27日(土)
時間:11:00~19:00
休廊:日曜日、月曜日
** 安心してご覧いただくため、空気清浄機、手指の消毒薬の設置などの感染対策を行います。

■レクチャー「パレイドリアの罠とその他の話題」(オンライン)
本展についての自作解説と、4月に予定している台湾でのグループ展についてお話しします。
5月13日(土)18:00~
タカザワケンジ(写真評論家、IG Photo Galleryディレクター)
You Tubeにて、配信します。
チャンネル名:IG Photo Gallery


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