IG Photo Gallery企画展
セキナオコ展「Tracing×Tracing」
IG Photo Galleryでは2022年11月8日(火)よりセキナオコ展「Tracing×Tracing」を開催いたします。
セキナオコは、これまでハンドメイドの写真集「Tracing」シリーズを発表してきました。今回の展示ではフリーペーパーに写真を貼り込んでつくった「Tracing」シリーズに加え、同シリーズから発展した、写真を使ったコラージュ作品を展示します。
手に取れる写真集「Tracing」から、壁に貼って見る「Tracing」へ。タイトルの「Tracing×Tracing」にはこれまでのシリーズを発展させるという作者のもくろみが込められています。作品制作を続けることで、ゆるやかに変化してきたプロセスが今回の展示の背景に存在するのです。
写真を使ったコラージュは近年、あらためて注目を浴びています。1950年代に制作したコラージュ作品が高く評価され、国内外で展示が続いている岡上淑子(「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」東京都庭園美術館、2019ほか)、『why i hate cars』(2019)などの作品集が日本でも知られるベルギーのアーティスト、カトリアン・デ・ブラウワー(Katrien De Blauwer)、IG Photo Galleryでも金村修のコラージュ作品「God Only Speed Knows」(2022)展を開催しました。
写真を使ったコラージュの歴史は、1910年代後半にダダイストのジョン・ハートフィールド、ラウル・ハウスマン、ハンナ・ヘッヒが作品をつくり始めたところから始まります。写真が掲載された雑誌がポピュラーになり、人々の欲望を代弁した写真が注目を集めるようになったメディア環境を背景に、3人は雑誌から写真を切り抜き、写真が置かれた文脈を破壊し、新たに作り直しました。アーティストたちは既存の写真を解体・再構成することで、当時の政治、世相、メディアを批評的に表現したのです。なかでもハンナ・ヘッヒは女性アーティストとしての視点から、いちはやく男性優位の社会に対する異議申し立てを作品の中で行っていたことから評価が高まっています。
現代ではネットメディアが視覚の中心に躍り出ましたが、いまでも雑誌や新聞は発行され続け、コラージュの題材にはことかきません。むしろ雑誌や新聞が過去にものになりつつあることで、あらためて印刷物としての写真の重要性が浮上してきたと言えるかも知れません。セキは雑誌から切り抜いた写真のみならず、自身で撮影した写真を多数使用しています。これはセキがもともと写真を撮影するところから作品づくりを始めたということもありますが、それだけではなく、現在の私たちの生活がスマートフォンで撮影し、SNSでシェアすることを日常的に行っている現実が反映されています。いまや私たちにとって、写真は「見る」ものであると同時に「撮る」ものなのです。
セキ自身はコラージュという手法についてステートメントの中でこう書いています。
「写真画面からモノを切り取ると、私の手の中で完全に天地がなくなり重力から解放される。私はコラージュする行為によって自我を解放しているかもしれない」
「Tracing」はテーブルの上に置いたフリーペーパーの上に切り抜いた写真を貼るという作業から始まりました。ハンドメイドの写真集として完成した「Tracing」シリーズは、見る者もまた視点を下に落とし、垂直方向の運動が反復されます。しかし、今回、壁に展示される「Tracing」は、水平方向からの視線にさらされます。そのとき写真にまとわりつく重力はどのように「解放」されるのでしょうか。ぜひ、会場でご覧ください。
** 安心してご覧いただくため、空気清浄機、手指の消毒薬の設置などの感染対策を行います。
■作家プロフィール
セキナオコ Naoko Seki
横浜市在住。金村修ワークショップに参加。Tokyo Art Book Fare2021でハンドメイドの写真集「Tracing」シリーズを発表。2021年、第56回神奈川県美術展写真部門奨励賞受賞。個展に「光景佇囲」(Launch Pad Gallery、横浜、2018)。
■会期
2022年11月8日(火)~26日(土))
時間:11:00~19:00(最終日は18:00まで)
休廊:日曜日・月曜日・祝日
■トークセッション(無観客)
11月12日(土)18:00~
セキナオコ×タカザワケンジ(写真評論家、IG Photo Galleryディレクター)
チャンネル名:IG Photo Gallery