さんべたかこ展
「母の娘としての、あたしは死んだ」
さんべたかこは1993年東京生まれ。2017年より写真をはじめ、Tokyo Art Book Fairでセルフ・パブリッシングの写真集を発表してきました。個展は今回が初めてとなります。被写体となっているのは作家自身、および、彼女の身の回りにあるモノたちです。テーマとなっているのは、一人の女性と毒親との葛藤です。
毒親とはアメリカのセラピスト、スーザン・フォワードの『毒になる親 一生苦しむ子供』(初版1989年、日本語版1999年)がベストセラーになったことをきっかけに、一般的な用語となったものです。フォワードは毒親についてこう定義しています。
「子供に対するネガティブな行動パターンが執拗に継続し、それが子供の人生を支配するようになってしまう親」*
さんべは17歳のときに高校生活からドロップアウトし、引きこもり状態に。彼女自身の言葉によれば「丸6年向精神薬とインターネットと暴力と自傷行為の中でだけで生きていた引きこもりの病人」** としてすごしたあと、親の管理下でひとり暮らしをした3年を経て実家と絶縁状態に至ります。
彼女はその過程で家族との激しい葛藤の渦に巻き込まれ、とくに母親に対しては言葉では表現しきれない複雑な感情を抱くことになりました。その感情について彼女はこう記しています。
「いつも、母ばかりが、私について行動しているように見えた。頭を掻きむしり、私と体当たりで対峙した。どうしてだろうか。17歳から若く充実させられたはずの年月はなぜあんなに長かったのか。『それはあんたが入院しなかったからよ、そうすれば早く治った』と、一人暮らしを始めた私に母は言った」**
さんべは京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)芸術学科芸術学コース(通信)在学中から写真を始め、身近な題材として自分自身にカメラを向け始めます。外出先のカメラに向けて撮ること、つまり記録からスタートし、次第に部屋のなかで演出した写真の撮影へと移行していきました。
カメラを通して「私」と向き合わざるをえなくなった彼女は、「私」と母親の関係についても再考するきっかけを得ました。
「私が自撮りをしていると、最後は必ずというほど怒りになっていってない? 初めは、可愛い顔をしてみせてても。それを爆発させていると気持ちがいい」**
展示ではセルフポートレート、自身と関係の深いモノに目を向け、母との関係を見つめ直すための第一歩として作品を構成します。
母とは「私」にとってどのような存在なのか。母から生まれた「私」とは何者なのか。母から生まれたすべての人間にとって普遍的な問いを投げかける作品です。ぜひ、ご高覧ください。
*(スーザン・フォワード著、玉置悟訳『毒になる親 一生苦しむ子供』講談社+α文庫)
**展覧会にあたっての作者自身の言葉