IG Photo Gallery |前川光平展「Carved Land」  


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2023/10/10~10/28
IG Photo Gallery企画展

前川光平展「Carved Land」

 IG Photo Galleryでは2023年10月10日(火)より前川光平展「Carved Land」を開催いたします。
 前川光平は2020年から作品発表を始めた新進作家です。
 2018年に日本大学芸術学部写真学科を中退後、ピザ配達のアルバイトをするかたわら、自宅の庭や家、その周辺に自作のオブジェや看板、人形などを配置する、いわゆるYard Artの撮影を始めました。この作品《Yard》が、清里フォトアートミュージアム「ヤング・ポートフォリオ(YP)2020」に入選し注目されました。その後も同シリーズが2021、2022年に入選。2021年には個展「隣の芝は青い」(Alt_Medium、東京)で《Yard》シリーズを発表しています。また、都築響一のメールマガジン「ROADSIDERS' weekly」(2021年01月06日 配信号)でも同作品が紹介されたことも話題になりました。
 今回の作品は《Yard》とは別のシリーズ、「2023 PITCH GRANT」のファイナリストに選ばれた《Ghost Dawn》をブラッシュアップし「Carved Land」として展示いたします。
 「Carved Land」は山間の集落に点在する案山子(かかし)を撮影したものです。案山子といっても田畑の中に立ち、鳥を追い払うためのものではありません。村落に生活する人々の姿をなぞった、人間と見まがうような人形です。
 前川は案山子のある風景に、過疎化が進みかつてのにぎわいをなくした地域の生活、文化の記憶を読み取っています。その光景には、老若男女がともに共同体を構成し、活気を持っていた時代が残像のように残っていたからです。そのうえ、前川は夜、ストロボで人工光を当てて撮影することで案山子たちが闇から浮かび上がらせ、非日常的なもう一人の世界をつくりだしています。
 これらの案山子は日中に見ればまったく印象が異なります。愛くるしい表情や懐かしい服装はかつての村落の様子を思わせ、郷愁を呼び起こし、観光資源にもなっています。
 しかし、夜になると案山子たちは不気味な存在に変貌します。ゾンビや亡霊、人ならざるものを連想させる姿になるのです。
 案山子の歴史は古く、古事記までさかのぼります。蛾の皮でつくった衣服を着た久延毘古(くえびこ)が、天之羅摩船(あめのかがみのふね)に乗って海からこの国にやってきました。久延毘古は立ったまま動くことができませんでしたが、世界で起こることをすべて知っていました。この久延毘古という神が案山子をさすとされています。
 その後、山の神、田の神の化身とされてきた案山子ですが、現代社会ではその神秘性をすっかり失なったように見えます。
 しかし、前川がとらえた案山子は、田畑を離れロードサイドまでやってきた新たな神のようにも、人ならざる存在にも見えます。彼らは大昔の案山子のように世界のすべてを知ってはいませんが、人間社会のありようを模した「人に似た神」に転生したのかもしれません。あるいはアメリカのB級ホラー映画シリーズ『案山子男( Scarecrow)』(2002~2004)が、忘れられた案山子がいじめっ子を成敗した映画だったように、忘れられたことへの復讐を企てているのかもしれません。
 いずれにせよ、前川の作品の中に文明批評、社会批評があることは間違いありません。
 前川はこれらの案山子がいる光景を、不意に目撃したものとして直感的に撮影しています。つまりこれらの作品は人間と案山子が出会った一期一会の記録でもあるのです。
 前川がこれまで取り組んできた《Yard》と、今回の個展で初めて展示する《Carved Land》に共通するのは、路上という場所です。クルマやバス、トラック、バイク、自転車、歩行者など、誰でも通ることができる公共の場所に、突如現れた奇妙な、しかし惹きつけられる光景。夜の闇を切り裂くストロボ光が非日常的な光景を出現させ、私たちを別世界へと連れて行きます。
 廃墟のような景色の中にひっそりと無言で立ち続ける案山子たち。その光景は過去の記憶の再現であると同時に、人口減が止まる気配がないこの国の未来でもあるのです。

タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)

** 安心してご覧いただくため、空気清浄機、手指の消毒薬の設置などの感染対策を行います。

■作家プロフィール
前川光平 Maekawa Kohei
1993年東京都生まれ。 2018年日本大学芸術学部写真学科中退。 金村修ワークショップ参加。清里フォトアートミュージアム(K*MoPA)のヤング・ポートフォリオに2020年から3年連続で入選。2023年、「2023 PITCH GRANT」(主催:THE BACKYARD)ファイナリスト選出。
[グループ展]
2017年:Visual Communication Exhibition 2017 (茨木県立つくば美術館)
2022年:Visual Communication Exhibition 2022 (茨木県立つくば美術館)
[個展]
2021年: 『隣の芝は青い』 (Alt_Medium)
[インタビュー]
ROADSIDERS 'weekly (2021/1/06号, 2022/9/21号)
[収蔵]
清里フォトアートミュージアム (2020,2021,2022)

■会期
2023年10月10日(火)~10月28日(土)
時間:11:00~18:30
休廊:日曜日・月曜日・祝日

■トークセッション(無観客)
10月13日(金)18:00~
前川光平×タカザワケンジ
You Tubeにて、配信いたします。
チャンネル名:IG Photo Gallery


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