IG Photo Gallery企画展
薛穎琦(セツ・ヒンキ)展「光の彼岸」
IG Photo Galleryでは6月6日(火)より薛穎琦(セツ・ヒンキ)展「光の彼岸」を開催いたします。
薛穎琦は台湾の写真家。保険会社の債券トレーダーを経て日本で写真を学んだという異色の経歴の持ち主です。多くの写真作家を輩出した東京綜合写真専門学校を卒業した薛は、同出版局(TCP press)から最初の写真集『熠燿宵行』を出版。2022年3月に台北で同名の初個展を開いています。
『熠燿宵行』は台湾・台南市で元宵節(旧暦1月14・15日)に行われる「塩水蜂(爆竹祭り)」に取材した作品でした。 約140年前塩水区で流行したコレラを鎮めるために関帝聖君に祈りを捧げたことから始まった年中行事です。祭りには大量の火薬が使われ、写真には炎と光、山車と人が写っています。薛はこの作品で祭りにおける火に込められた意味に興味を持ち、以降、日本と台湾の火祭りを取材してきました。
今回展示する「光の彼岸」は『熠燿宵行』から発展した、火と光、そして死をテーマにした作品です。
古代より中国文化における火には両義的な意味がありました。一つは邪気を払う聖なる力。もう一つはすべてを焼き尽くしてしまう凶暴な力です。前者を生へ向かうベクトル、後者を死へ向かうベクトルと考えれば、火がもたらすまばゆい光が前者の象徴であり、その熱が後者を象徴することは明白です。薛が撮影した写真にも、闇を切り裂いて輝く光と、降り注ぐ火花が写っています。
セツはステートメントにこう書いています。
「刹那の火花はあの世に繋り、煌めきの向こうに異界の景色を覗けると思った。その光の向こう、三途の川の彼岸に、一体どんな光景があるのだろう」
「光の彼岸」は、2023年4月に行われた台北でのグループ展「寫真作家主義-Takazawa Kenji 寫真表現工作坊聯展」で一部を展示しました。今回はその発展型であり、今後の薛の作品の方向性を明確にする展示となるでしょう。
展示する作品は台湾と日本で撮影されています。主なものは台湾から、南瑤宮三媽潦溪(彰化)、南洲迎王(南洲)、柳營代天院送王(台南柳營)、射火馬(台南後壁崁頂)、日本から、火振祭(甲賀市)、松明祭(須賀川市)、花火大会(川崎市)、道祖神祭(野沢温泉)などです。
ともに中国文化の辺境の島国という共通点を持ち、独自の文化を育ててきた日本と台湾。「光の彼岸」は日台を視野に入れ、火と光に象徴される祈りと畏怖を描くことで、極東アジアにおける死生観を問う作品です。
なお、展覧会開催にあたり、作家が来日し、当ディレクターとのトークセッション(オンライン)を行います。そちらもぜひ、ご覧ください。