IG Photo Gallery企画展
Yui Takatsu展「-MYnus Lagoon」

IG Photo Galleryでは2025年9月30日(火)より、Yui Takatsu展「-MYnus Lagoon」を開催いたします。Yui Takatsuにとって初の個展となります。
写真は目の前の現実を正確に描写しますが、それが本当のことだとは限りません。写真に本当と嘘の区別はなく、ただ淡々とそこにあるものを写し取るだけです。
そのため、写真はその機能を使って時には写真家のファンタジーを具現化し、時にはフェイクニュースに加担します。またある時には商品を魅力的に見せ、別の時には欠陥商品であることを暴露します。
では、Yui Takatsuの「-MYnus Lagoon」は写真をどのように使っているのでしょうか?
その写真は一見、トロピカルで明るい、しかし歪んだ水中の写真に見えます。しかしよく見るとそこには日常的な東京らしい町並みと、その町並みに不釣り合いなサイズの魚や植物がたゆたっています。
この写真が現実をそのまま写したものでないことは、おそらく多くの人が気づくでしょう。写真に詳しい人ならどのように撮影されたか見当もつくかもしれません。しかしそれよりも重要なのは、これらの写真が一種のファンタジーであること。それも、画面の明るさとは裏腹のダークなファンタジーであることです。
Takatsuはこの作品の着想をハザードマップから得ています。自身が生まれ育った町が、いわゆる海抜ゼロメートル以下地帯だったことを知ったことがきっかけでした。
Takatsuはステートメントで以下のように述べています。
「あまりにも衝撃だった。
この土地は海よりも低い。 そう言われても、想像ができなかった。
もし、この土地を囲む起伏が存在しなかったとしたら、 ここは海の中なのだろうか。 もし、そうだとしたら、 それはどんな景色なのだろうか。
この作品は、そんな問いから生まれた」
日本は災害の多い国です。地震、津波、豪雨といった災害に見舞われない年はないといっていいほどです。それでもなお、私たちはこの日本列島に住み、自然の恵みを得ながらも、その理不尽な暴力と折り合いを付けてきました。この国の風土が私たちの感性や文化に影響を与えていることは間違いないでしょう。
Takatsuの作品からも日本人と自然との関係性を読み取ることができます。浦島太郎の竜宮城が楽園のように描かれる一方で、その時間の流れが地上とは異なることから起きる悲劇をも暗示しているように、Takatsuの作品にも明るさと恐れの両面が感じ取れます。
ではなぜこれらは写真なのか。現実そっくりでありながら、どこかおかしい。その微妙なずれを表現するのに写真は適したメディアです。そして日常的に誰もが使える簡単なツールであり、ほんのちょっとしたアイディアをすぐにかたちにできるという点も見逃せません。
Takatsuの作品にはそうしたカジュアルなチャレンジと、日常の幻視から生まれたファンタジー、そして、そのファンタジーの先には生命の危険があるかもしれないという恐怖が織り込まれています。
しかも、その恐怖は、日常の中にいる私たちにとって、どこか本気にできないものでもあります。奇妙な明るさのある、危機感の薄い日常──それらに対するアイロニカルな視点がこの作品の特徴です。
なお、本展は毎年、京都芸術大学通信課程写真コースの卒業展から選んだ作家の作品を展示する特別企画です。当ギャラリーのオーナーで写真・映像作家でもある石田省三郎が卒業生であることから始まった企画で、これまで、牧野友子展「なにが良かったのかなんて、にんげん終わってみないとわからないものよ」(2019)、野村美和展「文明標本」(2021)、クガハルミ展「玉響―tamayura―」(2022)、コジマ・アキ展「5m」(2023)、建石芳子展「memento mori」(2024)を開催してきました。
新しい作家の作品にご期待ください。
また、10月4日(土)にはギャラリーからオンラインでトークセッションをライブ配信予定です。そちらもぜひご視聴ください。
■作家プロフィール
Yui Takatsu
1995年東京都生まれ。、2025年、京都芸術大学通信教育部美術科写真コース卒業。グループ展に「都市への視線」(2025、Space Jing)がある。
■会期
2025年9月30日(火)~10月18日(土)
時間:11:00~18:30
休廊:日曜日・月曜日・祝日
■トークセッション(無観客)
10月4日(土)18時より配信予定
Yui Takatsu×タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)
You Tubeにて、配信いたします。
チャンネル名:IG Photo Gallery
*これまでのトークセッションの録画もあります。チャンネル登録をお願いします。