IG Photo Gallery企画展
鷹巣由佳展「mille-pelerille <ミルペリイユ>」
IG Photo Galleryでは2025年2月12日(水)より、鷹巣由佳展「mille-pelerille <ミルペリイユ>」を開催いたします。
鷹巣由佳はアートブックの制作と展示活動を行う写真作家、グラフィックデザイナーです。
2021年にKYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)2021のポートフォリオレビューに参加し「Ruinart Japan Award」を受賞。2021年秋に渡仏しRuinartのアート・レジデンシー・プログラムに参加しました。KYOTOGRAPHIE2022でレジデンスでの成果を踏まえた個展「予期せぬ予期 Unexpected expectations」を開催し注目を集めました。
「Ruinart Japan Award」を受賞した作品は、写真ストレージサービスGoogle photoにアップロードした自身の写真をGoogleのロゴの色(黄・赤・青・緑・白)をキーワードに検索し、色別につくった5冊の写真集でした。
5冊で1500ページに達するこれらの写真集のスタートは、日本ではタウンページと呼ばれ、国際的にも 「YELLOW PAGES」として認識され多くの国で黄色い紙に印刷されている電話帳です。どの国でも消えつつある電話帳は、デジタル化によって消えゆく紙媒体を象徴しています。
鷹巣はその5冊の写真集で、写真のセレクトにおける自身の主観を手放し、「他者」の視線を借りました。写真集、展示ではどの写真を選ぶことが重要であり、写真集編集において編集者やグラフィックデザイナーなどの「他者」を介入させることはしばしば行われてきました。しかし、彼女はその「他者」に人間ではなく、Google photoの検索機能を使ったのです。
鷹巣はデジタル化によってイメージのみが流通するようになった写真を、AIの認識能力を使って選んだ後に、伝統的な写真媒体である紙に落とし込んだことになります。そして、分厚い電話帳を思わせる写真集にしました。アナログ時代の「電話帳」は、彼女の手によって、デジタル技術を通過した新しい「写真帳」として再生したのです。
鷹巣が今回展示する作品もまた写真集というモノから出発しています。
個展開催のきっかけは、2024年7月にIG Photo Galleryで開かれたヴィクター・シラの写真集ワークショップでした。レビューを受けるために彼女が持参したハンドメイドの写真集は、複数のサイズ、異なる用紙を混在させたもので、それ自体が一つの小宇宙のようでもありました。本という枠組を超えて発展していく可能性を内包していると感じさせるものでした。
ワークショップの企画者であった私は、彼女のアートブックを展覧会のかたちにできないかと考え個展の開催を提案しました。
鷹巣から提案された展覧会のタイトルは「mille-pelerille <ミルペリイユ>」。
mille はフランス語の「千」、feuille は「葉」。mille-feuille(ミルフィーユ=千枚の葉)というデザートでよく知られたこの言葉に、鷹巣は 「巡礼」を意味するpelerinage(ペルリナージュ)をはさみ、「mille-pelerille <ミルペリイユ>」という言葉をつくりだしました。
鷹巣はこの言葉についてこう書いています。
「ひとつの情景が展開していくさまをただ見るのではなく、幾重もの感情や成り行きや成長や変化や、人それぞれに訪れるそれらをミルフィーユみたいに積み重ねる」(*)。
「巡礼」という言葉には、鷹巣の作家活動が端的に表現されています。彼女はこれまでもヨーロッパ、アジア等の各地を訪れ、旅と日常の境界線や、言葉にできない何かを写真やアートブックのかたちで表現しようとしてきました。
現代において旅は日常を脱し気分転換するための手軽な娯楽として認識されていますが、鷹巣は旅にさらに深い意味を見出しています。未知の文化への接触と衝突、その経験を経て見聞を広めることを、人間の成長のための経験としてとらえ、現代人の生活に欠かせないものと考えています。「巡礼」という言葉は、旅をもう一段深いところに届かせる言葉なのです。
彼女の「巡礼」は、未知の場所を訪れ写真を撮りに行くことであり、つかみとったその写真群を編集し、本や展示というかたちに変化させるプロセス全体を指しています。とくに本は手軽に持ち運びができる写真の乗り物であり、彼女はそれをスーツケースに入れて、世界各地のアートブックフェアで未知の読者と出会ってきました。
今回の展覧会は本を出発点とし、展示として構成する新たなシリーズの起点でもあります。鷹巣は、この展示を世界各地の都市で開催することで、作品をさらに発展させていこうと考えています。
鷹巣由佳の新たな旅の始まりでもあるこの展覧会をぜひご覧ください。
なお、2月15日(土)18:00よりギャラリーでトークセッションをライブ配信いたします。そちらもぜひ、ご視聴ください。
** 安心してご覧いただくため、空気清浄機、手指の消毒薬の設置などの感染対策を行います。
■作家プロフィール
鷹巣由佳 Yuka Takasu
愛知県生まれ。2021年、KYOTOGRAPHIE×Ruinart「Ruinart Japan Award」受賞。2021年秋フランスに滞在し、Ruinartのアート・レジデンシー・プログラムに参加。主な個展に「予期せぬ予期 Unexpected expectations」(KYOTOGRAPHIE、京都、2022)、「YELLOW PAGES LONDON」(ギャラリーニュートラル、京都、2024)ほか。写真集に『kiitos』(2014)、『NEW ANGLE PHOTOGRAPHY』(2015年)『◯(maru/circular)』(2016)『KIASMA』(2017)『Omonpacal』(2018)『mille-pelerille,YELLOW PAGES、RED PAGES,BLUE PAGES』(2019)『GREEN PAGES』(2020)『WHITE PAGES』(2021)などがある。デザイン事務所 211design-meme-主宰。
■会期
2025年2月12日(水)~3月1日(土)
時間:11:00~18:30
休廊:日曜日・月曜日・祝日・2月15日(土)
■トークセッション(オンライン配信)
2月15日(土)18:00~
鷹巣由佳
×タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)
You Tubeにて、配信します。
チャンネル名:IG Photo Gallery