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2020/3/24~6/5(緊急事態宣言のため一時休止)
IG Photo Gallery企画展

石田省三郎展

TSUKIJI JONAI 2018


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 石田省三郎は福島第一原発の事故により帰還困難区域になった地域を走る路線バスから撮影した写真集『Radiation Buscape』(IG Photo Gallery、2018)を刊行し写真作家としてデビューしました。また、『Radiation Buscape』に続く作品として、夜の東京の交差点四方向を撮影し比較暗合成した「CROSSING RAY」をIG Photo GalleryとHIJU Gallery(大阪、2019)で発表しています。2つのシリーズには、現代の都市文明に欠かせない電力に対する石田の批評的視点がうかがえます。

 今回展示する「TSUKIJI JONAI 2018」は最新作。2018年10月6日に閉場した築地市場の内部を撮影した作品です。  市場の代名詞として長らく親しまれた築地市場が83年の歴史に幕を下ろし、豊洲に移転したことは、当時大きなニュースとなりました。
 閉場から1年半が過ぎ、すでにいくつかの写真集が刊行されているため、石田の作品は築地市場を題材とした作品としては「遅れてきた」ものに感じられるかもしれません。
 しかし、「TSUKIJI JONAI 2018」はこれまで発表された築地市場のどの写真作品にもない視点を持っています。それは築地市場という「場」、そして、そこで使われてきた「モノ」たちに向けるまなざしです。

 日本の写真界では、築地市場の閉場のように大きな出来事に対して、人間中心のドキュメンタリーに軸足を置く作品が一般的でした。しかし、人間が写っていれば、その写真は「人間を描いた」ことになるでしょうか。  石田が撮影した築地市場には人間の姿はありません。あるのは彼らが長年使ってきた道具や、彼らが働いていた場、空間です。写真には人間は写っていませんが、その痕跡から、かつてたしかにそこに人の営みがあったことを想像させます。
 黒と白のみのモノクロームの中に精妙に構成された画面は、写真史における数々のモノ写真を想起させます。とくに、アルベルト・レンガー=パッチュらドイツのノイエザッハリヒカイト(新即物主義)の写真家たち、また、ウォーカー・エヴァンスやマーガレット・バーク=ホワイトらアメリカのモダニズム写真が開拓した、写真による「モノ」の表現の系譜に連なる作品だと言えるでしょう。
 人物をあえて撮影せず、場やモノからその歴史、記憶を呼び起こそうとする石田のスタイルは、写真表現としてきわめて正統的なものなのです。

 いまや築地市場の跡地が話題になることはなく、移転問題はすでに過去の出来事になりました。「TSUKIJI JONAI 2018」に写っている場所もモノもすでに存在しないか、そのあり方を大きく変えてしまっています。
 石田は「TSUKIJI JONAI 2018」で、電力をテーマにした2つの作品で示した批評的視点を、都市の流通システムと時のうつろいに向けています。築地市場とは何だったのかを、写真を通して考える機会になることでしょう。

タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)

■作家プロフィール
石田省三郎(いしだ・しょうざぶろう)
 1946年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。弁護士として「土田、日石、ピース缶爆弾事件」、「ロッキード事件」、「東電女性社員殺人事件」など、戦後史に名を刻む刑事事件の弁護に携わる。著書に『「東電女性社員殺害事件」弁護留書』など。
 弁護士業務のかたわら、2017年、京都造形芸術大学通信写真コースを卒業。2018年、福島第一原子力発電所事故により「帰還宅困難区域」に指定された地域をJR常磐線代行バスから撮影した写真集『Radiation Buscape』(デザイン鈴木一誌+山川昌悟、解説タカザワケンジ)を刊行。2019年、個展「Crossing Ray」(Hiju Gallery、大阪)を開催。IG Photo Gallery主宰。

■トークセッション
石田省三郎×タカザワケンジ(写真評論家、IG Photo Galleryディレクター)
 You Tubeにて、配信いたしました。
 チャンネル名:IG Photo Gallery
 URL:https://www.youtube.com/channel/UCcGgcEoYRw-52aKVc4UesuQ/

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